Title  グリーン・カード 76  緑の札 76  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十一月五日(水曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  夜明けの人生 二  Description  漸て。  怖ろしいキカイの性能は、シノ ブの生靈を、その肉體から奪取し た。彼女は屍のやうに、グラス・ ボツクスの中に埋もれた。彼は屍 のやうになつたシノブの生靈のな い肉體を今度は、大きいグラス・ ケースの中へと運んだ。まつたく 「死相」に變じた彼女の顏には、一 抹の「生氣」さへも動かなかつた。 間もなく----。グラス・ケースに 異なつた數條の光りを吐いた。  光りと光りが交錯し廻轉した。  刻、一刻と「時」は流れた。  キカイは無茶苦茶に光線を吐き 出した。  戀人の生命をかけて、アキラは 今その審判の庭に起つたのだ。  時が流れた。  信念に燃えてゐた彼の眼が、次 第に不安な戰慄へと墜ちた。  時刻----は過ぎた。  まだ、グラス・ケースの中には 何んの變化も見えない。アキラは 怖ろしい焦躁を感じた。     ×  再び刻は----過ぎた。  けれどもグラス・ケースの中に はまだ何んの變化も起らない。  アキラの心は堪らなかつた。彼 はもう亂れる心をどうすることも 出來なかつた。 「だ、駄目だ…………。」  彼は頭を抱へて、ばつたりと倒 れた。深い/\底の知れない昏迷 の闇から、紫電のやうにアキラの 頭に閃いたのは(創造主!神の世 界!)と叫んでゐる妹、タズの姿 である。 「あゝ!己れは裁かれてゐる!己 れは眼に見えぬ大きいものゝ力を 見せられてゐる!」  彼は狂人のやうにグラス・ケー スの中から、シノブを抱き上げて 實驗室から驅け出した。  アキラの研究室----。  アキラはシノブを抱きしめた まゝ、實驗室から飛び出して來る と、彼女の屍を大きいデスクの上 に横臥させて、暫らくは無言の まゝ、その屍の顏を凝視めてゐ た。  奇怪な幻影が彼の瞳を亂した。 (叛逆者!)  アキラの耳は、怖ろしいものゝ 罵聲を聞いた。 「お!己れは罰しられた!お、己 れは愛人を殺した!」  アキラの眼に、ふ----と自殺              ヽヽ した父の冩眞が映つた。彼はぴつ ヽヽ たりと身動きもせずに、暫くは その冩眞に見入つてゐた。  涙が、ポトリ!と不意にアキラ の眼頭からこぼれた。 「お!父よ!ぼ、ぼ、僕の科學は 所詮、人生の玩具に過ぎなかつた のです!」  刹那に彼は惡魔のやうな母の顏 を胸に擬した。  〃敗滅せよ!科學の世界!所 詮、人生は獸の世界だ!!〃  ----と、刹那。 「お、お待ち!」  彼の怖ろしい右手は、確かりと 握りしめられた。 「…………」  彼は默つて、その腕を見た、そ の額を見た。  その額を、涙に濡れたその言葉 を、アキラはぼんやりと見、ぼん やりと聽いた。  〃母に似た人----。〃  End  Data  トツプ見出し:   高松宮、同妃兩殿下   スペイン皇帝陛下と御對面   大勳位菊花章頸飾を   御贈進の御儀   莊嚴裡に行はせらる  廣告:   十一月一日ヨリ仝七日マデ 健康週間     内務省主唱 近畿府縣聯合   眼鏡印肝油  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十一月五日(水曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年09月10日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月18日    $Id: gc76.txt,v 1.3 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $