Title  グリーン・カード 55  緑の札 55  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月五日(日曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  緑の札 八  Description  シノブはヒカルを撃つた、兄ジ ユンの祖國を思ふ血は妹にも流れ てゐたのだつた。     ヽヽ  しかしたまは外れた。  二度目に銃を擬したとき 「待つて!」  ヒカルが叫んだ、シノブは思は ずためらつた。 「侍つて!話がある、」        ヽヽ  ヒカルは急にしく/\泣き始め た、呆氣に取られて二人は顏を見 合せた。 「ハナド」  しばらくしてヒカルがいつた。 「妾、ハナドを敵として戰はねば ならないなんて、何て不幸なん でせう、……妾はスツカリあの無 線電力輸送機の祕密を盜んでしま ひました、妾はそれを妾の本國へ 知らせねばなりません、ハナド、 妾は日本人ぢやないんです、日本 人を母に持つ外國人なのです」  アキラは意外に思つた、シノブ も不思議さうにヒカルの泣きぢや くる肩を眺めた。              ヽヽ 「けれども、けれども、妾はため らつてゐるのです、知らせやうか 知らせまいかそれをためらつてゐ          【×:一文字削除】 るのです……だつて妾しはハナド を敵にする勇氣がない」  ヒカルはこゝまでいふと聲を出 して泣き崩れた。 「そんなことをいつてこの塲を逃 れやうたつて駄目だ、お前は目的 のためには手段を選ばない女だ、 現代の女だ」  アキラは弱る心を押へて叫ん だ。 「さうです、さうです、目的のた めに、妾は、タキ博士にも、ミム う頭取にも、妾の最後のものを贈 りました、そしてハナドに近づき 機械の祕密に近づいたのです、だ が、その目的を達しておきながら 急に妾は悲しくなつたのです、妾 はハナドに負かされたのです、ハ ナドの純情に負けたのです」  靜かにシノブが立ち上つた。ア キラはそれを默つて見てゐた。  目禮してシノブが立去りかけた【。】 「待つて、シノブ待つて!」  ヒカルがまた叫んだ。 「歸つてはいけません、歸らない で下さい」  シノブはまた引かへした。 「聞いて下さい、妾のざんげを聞 いて下さい、……妾は現代の女性 に戀愛はないといふことを、少し も疑はないで今日まで生きてゐま した、しかし、今日となつて、何    ヽヽヽヽ 故妾がためらふかといふことを考 へたときその解決はハナドに對す る戀だつたのです」 「戀!」  シノブの口からそんな言葉がか すかに漏れた。  アキラにも絶えて久しく聞いた ことのない、イヤ恐らく始めて聞 いた言葉だつた。 「さうです、戀です、妾はハナド に戀をしてゐたのです、そして戀 をしてゐながら、それを自覺しな いで、第二、第三の人に近づいて ゐたのです、……妾は駄目です、 妾はハナドに戀をする資格はなか つたのです」 「ヒカル!」  アキラが叫んだ。 「そんな話はもう止さう、……そ   ヽヽ れできみは祕密を本國へ知らせた のか」 「まだ、こゝに!」  彼女は胸を指さした。 「そして、君の本國といふのは!」 「妾の本國……それは……」  ヒカルが次の言葉をいはうとし た時だつた。 「アツ!」  と叫んで彼女は倒れた、胸のあ たりを鮮血に染めて----  End  Data  トツプ見出し:   年末金融對策   大體目算立つ   大藏、日銀、興銀間で協議し   早くも實行に着手  廣告:   メンソレータム 25sen  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月五日(日曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月27日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc55.txt,v 1.4 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $