Title  グリーン・カード 49  緑の札 49  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月二十七日(土曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  緑の札 二  Description  劇しいアンコールが起つた。ス テージは鮮明な光線の色彩に洗は れた。  〃進軍の序曲だ!〃  シノブが舞台に現はれた。  シノブの足下には多くの戰士が 伏してゐる。戰士は旗を捧げた彼 女の跳躍に誘はれて、次々に起ち 上る。  〃迫るやうな進軍マーチ〃  戰士の跳躍は始まつた。何とい ふ美と嚴と壯の舞踊であらうか。  彼等は勇ましく進軍を始めたの だ。  新しい人生への進軍を始めたの だ。           ペローネ2  それが人々の魂に、軍神の叫 聲となつて響くのではなからう か。も早人々の目は、舞踏を超え て人生の進軍をまざ/\と見せつ けられてゐるやうだ。  忽ち、感傷に沈淪した若い戰士 が見苦しい姿の苦悶に包まれて地 に斃れた。  心痛み、魂の涸れた老兵が、 續いて斃れた。老兵の死が漸く味 方の意氣を沮喪した。  味方の進軍は總潰れだ。奇蹟は ないか。この時、突如! 跳り起 つた勇壯な女騎士は、さながらに ペローネの如く味方に向つて叫聲  ヽヽ をあびせた。  おゝ、「アジヤの唄」がシノブの      ヽヽ 唇を突いてほとばしつたのだ。 人々に向つて。アジヤに向つて。 アジヤ民族に向つて----。  〃進軍、進軍、進軍だ、          ヽヽヽ   自我に生きるなめざめよ味方   人生は進軍だ   進め、アジヤ〃  〃めざめよ、めざめよ、めざめね   ば征戰の旗、アジヤに迫る   民族は鬪爭だ   めざめ、アジヤ〃  〃起て、起て、起て、奮ひ起て   權富貧賤、自我も反意も   結合だ、進軍だ   まもれ、アジヤ〃  思はず人々がアンコールに湧き 上つた。  進軍の舞踊が終つた。ステーヂ は廻轉しながら擡下した。  特別席に座を占めてゐたジユン の雙頬には、感激の涙が光つてゐ た。千萬言の美辭を弄するも、彼 のアジヤの唄が、シノブの唇を 通じる時ほどの深刻な効果が得ら れない。     ×  シノブはやがて屋上へ現はれ た。突如として彼女のフアンが彼 女を取りまいた。  彼女は飛行機の中に轉がりさう に滑り込んだ。彼らは懸命にそれ を拒んだ。 「シノブさん、何故僕達の要求を 容れて下さらないのですか? 僕             ナイト2 達は忠實な、貴女のための騎士で す、貴女のための----。」  彼等は飛行機を劇しく搖さぶつ た。  その時にジユンの姿が現はれ   ヽヽ た。す早く彼等の中の一人がそれ を見た。 「おい! 民族運動の先生が現は れたぞ!」  騒ぎは一瞬に沈み返つた。彼等 は双手を擧げてジユンを迎へるこ とを忘れなかつた。 「ウズキ先生! 僕等は今夜から 先生の味方です、僕等はこの通り 双手を擧げて、先生の民族運動に 加盟します!」          ヽヽ  彼等のリイダーがかう叫ぶと彼 等は一齊にイヱス!と贊同した。   ヽヽ 「君たちそれは本當か!」  ジユンが叫んだ。  End  Data  トツプ見出し:   山梨前朝鮮總督   愈よ法廷に立つ   昭和五大疑獄栽きの魁け----   釜山取引所亊件公判始る  廣告:   ヤマサ醤油大賣出し   喘息ニハ アスト 二○錠壹圓  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月二十七日(土曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月22日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc49.txt,v 1.6 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $